先日、友人から「猫のよだれがひどいから、動物病院に相談に行ったら歯肉炎と言われた」と深刻そうに話をされました。
現在はお薬での治療が続いていて、少しずつ状態はよくなって言っているそうですが、餌を以前より食べなくなったとかなり心配な様子。
わたし自身、歯科衛生士をしていることもあり、猫の歯肉炎についても気になって、すぐに調べてみました。
調べてみて驚いたのは、80~95%の猫が、歯肉炎をはじめとした歯周病になっているといわれていること。つまり、どの猫にとっても他人事ではないということでした。
友人宅の猫ちゃんのように、愛猫が歯肉炎によってご飯を食べられなくなり、どうやって栄養をつけてもらえばいいのか、途方に暮れている飼い主さんも多いはず。
そこで、今回は歯肉炎と食事の関係を中心にお話しします。
歯肉炎による口の痛みでご飯が食べられない猫ちゃんにご飯を食べてもらう工夫や、歯肉炎を予防するための食事について、情報盛りだくさんです。
歯肉炎とは、どんな病気?

歯を支える歯周組織の病気を歯周病といいます。
その中でも治療によって回復可能なものを歯肉炎、もとの正常な歯周組織に戻すことができないものを歯周炎といいます。
今回は歯周病の初期段階でもある歯肉炎について詳しくお話しします。
歯肉炎になる原因
歯肉炎をはじめ、歯周病の原因は歯垢や歯肉、歯の隙間についた細菌です。
細菌が直接働きかける、もしくは細菌が出す毒素によって歯肉の炎症を引き起こします。
そこから、口腔内の衛生状態(歯がきれいか、傷がないか)、猫の免疫力や抵抗力によって進行していきます。
- 歯についた歯垢や口腔内の細菌繁殖によるもの
- 口腔内の衛生状態が悪い
- 猫の免疫力の低下
歯肉炎の症状
歯肉炎は、最初に歯ぐきの表面部分が赤く腫れてくるところからはじまります。
放置すると、口腔内の痛みを感じるようになり、よだれが多くなったり、口臭がきつくなるなどの症状が見られる様になります。
- 歯肉の発赤、腫脹
- 口の痛み
- 口臭がきつくなる
- よだれが多くなる
- 口や顔に触られるのを嫌がる
- 食事中、頭を傾けたり、片側のみで食べている
- 食欲がなくなる(食べる量が減る)
歯肉炎を放置してしまうと、歯周ポケットから膿がたまり、歯の根元にまで炎症を起こし、歯ぐきから出血したり、歯が抜け落ちてしまいます。
この状態を歯周炎といいます。
口の痛みもとても強くなるため、口臭はきつくなり、よだれの量も増え、食事もとれなくなってしまいます。
歯肉炎の治療法
歯石が付いている場合は歯石を除去します。この際、全身麻酔で処置を行うことが多いです。
歯ぐきの炎症に対しては抗生剤やステロイド剤などで投薬治療を行います。
また、病状が進んでいる場合は抜歯をすることもあります。
そのほかにも、状態に合わせて食生活の指導、基礎疾患(糖尿病、猫白血病など)の治療も同時に行っていきます。
歯肉炎をはじめ、歯周病については、こちらの記事で詳しく書いています。

歯肉炎が原因でご飯を食べない時の対処法

体調を整えるためはまずは栄養から。
そのため、食事は病気を治すためにも必ず必要なものです。
ここからは口が痛くて餌が食べられない猫ちゃんでも、ご飯を食べてもらう秘策を紹介していきます。
ご飯を食べるようになる5つの秘策
歯肉炎をはじめとした歯周病では、口の痛みに伴って食欲が落ちてしまうというのは先ほどお話しした通り。
そのため、食事はやわらかくて刺激の少ないものが良いとされています。このあたりは人間でも同じことが言えますね。
口の中の状態や栄養状態に合わせて餌の形や量を変えていくようにしましょう。
具体的な方法は以下の通りです。
- ドライフードからウェットフードへ変える
- ドライフードをお湯でふやかす
- お湯でふやかしたフードを食べないなら、猫の好きなもの(鶏肉、かつお節など)の煮汁でフードをふやかす
- ふやかしたフードをウェットフードとまぜる
- ミキサーを使ったり、すりつぶしたりして餌をドロドロにする
以上の項目について、更に詳しく説明させていただきます。
ドライフードからウェットフードに変える
普段のフードがドライフードの場合、ウェットフードに一時的に切り替えるという方法が手っ取り早い方法です。
この後に詳しくお話しする予定ですが、ドライフードは歯肉炎予防に効果があり、総合栄養食としての形態でも多く発売されているので、普段の食事にドライフードを選ぶ飼い主は多いでしょう。
しかし、歯肉炎にかかっている猫は口の中の痛みで固いものが食べにくくなっています。
その点、ウェットフードは柔らかくて食べやすく、さらに水分を多く含んでいるので、餌と同時に水分補給も可能です。
水を飲むのも一苦労の状態の猫ちゃんにとっては、栄養と食事を同時にとることができ、メリットは十分あります。
普段の食事を変えたくないと考える飼い主さんもいるとは思いますが、ここは身体の調子を整える方が大切です。
また元気になってから、元のフードに戻してあげましょう。
ドライフードをふやかす
さまざまな理由で、簡単に餌を変えられない場合もあるでしょう。
また、猫は嗜好性の高い動物です。香りが高く、美味しいものなら食べる傾向にはありますが、中にはこだわりが強く、普段と違うものだとあまり食べない猫もいるかもしれませんね。
そんなときにおすすめなのが、普段のフードをお湯にふやかして柔らかくするというものです。
フードが柔らかくなるだけでなく、ふやかすことで香りがまし、猫の嗅覚を刺激して食事の喰いつきを良くする効果があります。
わたしも以前飼っていたしゅりが軽い口内炎になって食欲が落ちた時、かかりつけの獣医さんからこの方法を教えてもらいました。
お湯の熱でフードの成分が変わったりするのではないかと気になったのですが、その獣医さんの話によると、お湯の熱でフードの成分が変質することは無いそうです。
その話を聞いて安心し、しゅりにはその時ずっと食べていたフードをくたくたにふやかして食べてもらっていました。
その結果、しゅりはしっかりと餌を食べ、思っていたよりも早く症状が改善して、またすぐに元の固さのフードを食べられる様になりました。
この方法はお金もかからず、すぐにできる方法なので、ぜひ実践してみてください。
猫の好きなものの煮汁でフードをふやかす
先ほどの応用になりますが、お湯でふやかしたものを食べない場合、鶏肉やかつお節などの煮汁でフードをふやかすという方法があります。
しかし、これは先ほどの獣医さんから聞いた話で、実際に試した方が周囲にいないので、効果は定かではないのですが、お困りの方がいらっしゃいましたら試してみてください。
ふやかしたフードをウェットフードとまぜる
普段の食事でも、ドライフードとウェットフードをまぜたものをあげている飼い主さんもいらっしゃると思います。
水分が多いウェットフードを混ぜているとはいえ、ドライフードの固さはそこまで変化がありません。
そのため、この場合もやはり、ドライフードはふやかしてあげる必要があります。
また、ドライフードをふやかしただけでは食べない場合も、ウェットフードを混ぜることで喰いつきが良くなりやすいです。
ミキサーなどを使用し、餌をドロドロにする
人間の食事でも、歯がない人に対してミキサー食といって、完全に形を無くしてドロドロにしたものを勧める場合があります。
歯や口の状態が悪いことでご飯をちょうどよい大きさにまで噛むことができないので、最初からドロドロの形にすることで噛む必要を無くすためにされる工夫です。
これは猫ちゃんにも同様のことで、ひどい歯肉炎や口内炎の時は小さな粒でも刺激になってしまい、痛みで食事ができなくなることが多々あります。
ミキサーを使って、ドライフードとウェットフードをさらに食べやすい形にすることも可能です。
少し手間にはなってしまいますが、これも猫ちゃんを元の健康な状態に戻ってもらうための工夫です。ぜひ参考にしてみてください。
症状の改善がなかなか見られない場合や、食事を全くとってくれない時、体重減少が見られる時は早めに動物病院に行きましょう。
歯肉炎4つの予防法

歯周病になってしまうことは、猫にとっては痛みだけではなく、食事もできなくなり、とてもつらいことです。
飼い主にとっても、苦しんでいる愛猫の姿はきっと見たくないと思われるでしょう。
ワクチン接種
歯肉炎の原因の中には、ウイルス感染症によるものがあります。これらのウイルスの予防をすることで歯肉炎になるリスクを減らすことができます。
猫免疫不全ウイルス(猫エイズとも呼ばれています)
猫白血病ウイルス(FeLV)
猫ヘルペスウイルス
猫カリシウイルス
以前、わたしの友人の猫が猫白血病になって亡くなってしまったのですが、その時はワクチンを打っていなかったそうです。病気を発症し、歯肉炎と口内炎になり、餌を食べることができずにどんどん弱っていき、とてもかわいそうだったと、後悔していました。
ワクチンで防ぐことができる病気に対しては、ワクチンを接種することが猫の健康を守るための最大の手段とも言えるでしょう。
マウスケア用品を使用する
歯肉炎をはじめとした歯周病の予防には、歯みがきが効果的だと言われています。
最近では猫用歯ブラシの他に、歯磨き粉や口の中に散布するスプレータイプや液状歯磨き剤もあります。
歯みがきを嫌がる猫のために開発されたケア用品もありますので、この機会にためしてみてはいかがでしょうか。
以下の記事では歯みがきの効果や方法について詳しく書いています。

サプリメントを使う
普段の生活の中で、さらに歯周病に気をつけたい飼い主さんにおすすめなのがサプリメント。おやつ感覚で与えたり、もしくは餌と一緒にあげるのもいいですね。
以下の記事ではオススメのデンタルサプリメントについて詳しく書いていますので、気になる方はぜひ見てみてください。

こちらの記事で書かれているサプリメントを、ゆねにも試してみました。
元々口臭はあまりなかったのですが、このサプリメントを使ってからはさらに気にならなくなりました。
ゆねも味を気に入ってるのか、パクパクと食べてくれています。もちろん、現在まで口の中のトラブルは0(ゼロ)です。
そのほかにも実感した効果については記事の中で詳しく書いています。
歯周病予防効果のあるフードを選ぶ
ウェットフードを主食にしている猫の方が歯石の付着率が高く、付着の程度も強くなる傾向にあると言われています。そのため、猫の主食にするのはドライフードの方が良いとされています。
ドライフードの方が、歯に余分な食べかすが残りにくく、またよく噛むことで唾液の分泌が促進されるため、歯垢や歯石の予防効果も高いです。
また、免疫力が低下しているときに歯肉炎はなりやすいもの。年齢を重ねた猫はさらにそのリスクが高いと言えるでしょう。
免疫力の低下を防ぐために、しっかりと栄養の入ったフードを選びましょう。タンパク質含有率が30%以上あるものを目安に選べばバッチリです。
さらに、栄養面だけではなく、安全性の高いものを選ぶのもポイント。
「穀物類不使用・グレインフリー」と表記のあるフードを選ぶようにしましょう。
穀物類は栄養消化の妨げになったり、アレルギーの原因になることもあるため、猫にとっては必要のないものとされています。
また、人工添加物が入っているものも避けるようにしましょう。
- 主食はウェットフードよりドライフードを選ぶ
- 免疫力維持のためにしっかりと栄養が入ったものを選ぶ(目安:タンパク含有率30%以上)
- 安全性の高いキャットフードを選ぶ(穀物と人工添加物が入っていないもの)
歯周病を予防するための食事選び

歯周病と食事は切っても切り離せないものです。普段から食事に気をつけて、歯周病の発症率を下げたいというのはどの飼い主さんも願うところでしょう。
お手軽な方法としては、餌(フード)の再検討があります。ここでは、歯肉炎予防効果の高い食事についてさらに詳しく説明します。
デンタルフード
その名の通り、食べるだけでデンタルケアの効果があるフードです。
ある程度の硬さがあるので、フードを噛むことで歯の表面を擦ることになり、歯垢や歯石が付きにくくなります。
また、基本的にはドライフードなので、歯に詰まりにくく、そのため汚れも残りにくいです。
このフードは継続して食べることで効果が出るので、たまにあげるのではなく、一定期間は続けてあげるようにしましょう。
値段は一般のフードと比較すると高額になっています。
主食にすることが難しいようであれば、おやつに与えるなど工夫して、少しずつでも毎日食べ続けられるようにしましょう。
わたしも、愛猫ゆねにデンタルフードをあげ続けています。ゆねは子猫の頃から食べ続けていたこともあり、残さずにしっかりと食べてくれています。
食後の歯みがきもしているので、歯はとても丈夫でキレイだと自信をもって言えます。
最近は歯周病を気にする飼い主さんも増え、子猫や老猫でも食べることができる(デンタル)フードが増えています。
その中でもわたしも愛用していて、おすすめのフードを紹介します。
もし、フード選びで迷っている方がいらっしゃいましたら是非どうぞ。

デンタルおやつ
デンタルおやつのほとんどは、ドライフード同様に硬さがあります。そのため、歯垢を付きにくくするだけでなく擦り落とす効果もあります。
種類によっては大きな粒のものもあるので、普段あまり噛まずに飲み込んでしまう猫もよく噛んで食べてくれます。
もちろん、おやつという名前の通り、味も美味しいものが多いです。
歯みがきを絶対拒否し、顔を触らせてくれない猫ちゃんや、おやつが大好きで毎日食べている猫ちゃんにはオススメです。
デンタルおやつにも種類がいくつかあります。
1.キブルタイプ
スナックタイプのおやつで、猫ちゃんにとってもスナック感覚で食べられるため、警戒心の高い子も喜んで食べてくれます。
粒も大きく、よく噛むことができ、味の種類も豊富です。
2.ガムタイプ
犬のおやつとしても有名ですが、猫のおやつにもあります。
よく噛まないと飲み込めないため、噛む力がつき、口腔内の清潔を保つことができるようになります。
3.ジャーキータイプ
この種類もデンタルケア用に加工されているものが多いです。
お肉を日干ししているため、嗜好性の高い猫ちゃんにはオススメです。
ペットショップなどで色々販売されていますので、猫ちゃんの好みにあったおやつを探してみて、スキンシップのお共に口腔ケアもいかがでしょうか。
歯の健康を気遣って作られたとはいっても、れっきとしたおやつです。与えすぎると逆に猫の健康を害してしまう可能性もあります。適量を守り、また猫用ときちんと明記されているものを選ぶようにしましょう。
まとめ

今回の記事では歯肉炎についての知識やその予防についてお話ししました。
- 歯肉炎について知り、愛猫の異常の早期発見をする。
- 歯肉炎で餌を食べない時は、やわらかくて食べやすいものを与える。
- 歯肉炎の予防方法はデンタルケアの他にワクチン接種やサプリメント、フードの工夫がある。
- 普段のフードはドライフードの方が予防効果は高い。
- 普段のおやつにもデンタルおやつを使用する。
歯肉炎の予防には普段からの猫ちゃんの様子を知り、ケアをしっかり行っていくことがとても大切です。
歯肉炎から歯周炎になってしまうと、口の中の痛さによって食事をとることもままならなくなり、どんどん弱っていってしまいます。
そんな愛猫の姿を見て、何も感じない飼い主さんはいないと思います。
大切な猫ちゃんがずっとおいしくご飯を食べられるように、まずはご飯の工夫をしてみてはいかがでしょうか。